Type:Hair atelier/Location:Atami,Shizuoka,Japan/Design:2021/Construction:2021/ Contractor:Yamada-komuten, hondaGREEN / Funiture:Yuji Tanabe Architects,Kyowa-mokuzai, VUILD-EMARF, Metaplant / Total floor area:51.37m2

ランドスケープデザインからインテリアデザインへ

静岡県の熱海市役所近くの坂道に面した、築34年S造5階建てビルの1階に計画した約50㎡の美容室。南側(水下側)隣地は交差点に面した公共施設計画地(膠着状態)で、現在はたいへん開けている。将来公共施設が建ったとしても広大な敷地であるため、隣地ギリギリまで建物が建てられる可能性は低いと考察される。よって今回のプロジェクトをインテリア空間に限定せず、周囲からの視認性にも配慮し取り組みはじめた。そしてランドスケープデザインからインテリアデザインをボーダーレスに繋げるために、クウキベイ(木杭の列柱)をデザインの中心に据えた。クウキベイは様々なプロジェクトで協働してきた、植栽家兼ランドスケープデザイナーのhondaGREENさんが発案・命名したもので、これまでにも我々が設計した住宅や店舗のランドスケープデザインに取り入れてきた。クウキベイは約30cm間隔で立っており、人が通ろうと思えばすり抜けられる間隔である。よって、光や風やネコを通しながらも領域を緩やかに隔てることができる。またクウキベイと視線とが鋭角になるほど、その列柱状の木杭は線から面へと変化し、視線が遮られる。今回の美容室はワンオペで行われるため、奥行きのある平面形において抜けのある視線を確保することが重要であった。同時に客同士のプライバシーの確保も考慮して、柔らかに領域を分けることができるクウキベイは大変有効であった。計画当初は通常ランドスケープで用いられているカラマツの木杭(φ60mm)をインテリアにも採用しようと試みたが、空間に対する径の太さ、表面の質感、割れやサイズの個体差などを考慮して、インテリアにおいてはタモ集成材の木杭(φ45mm)によってクウキベイをデザインすることとした。木杭同士はレーザーカットされた厚さ1.5mmのアルミアルマイト板で軽快に連結した。連結した支柱の一部は回転の支点にもなり、増席時や模様替えの際に可動できる仕組みとしている。平面計画は手前からエントランス・待合・カウンターを通り、左右に分けられたカット台エリア、配管のために床を上げたシャンプー台エリアとなっている。またカット台エリアの一部には、半円状のカーテンによる着付けスペースも設けている。

セミDIY

クウキベイを繋ぐアルミアルマイト板と、テーブルやカウンターやベンチに採用したラジアータパイン集成材は、我々が作成したCADデータからそのまま切断、穿孔された(アルミはMetaplant、集成材はVUILDのEMARFによる)。アルミだからこそ出来ること、集成材だからこそ出来ること、そしてその2つがデジタルファブリケーションによって、少量個別製作のハードルが下がっている今だからこそ、この組合せが実現した。言わば【切断】、【穿孔】を外注し【塗装】、【組立】を自ら行ったセミDIYである。セミDIYを手段としたのは、個人的な現場でのものづくりへの興味はさる事ながら、空間との一体感の創出やローコストや既製品のアッセンブル過多への懐疑や前例がないモノづくりへ否定的になりつつある施工業界への懸念等からである。図面や3Dや試作による検討を重ねるとともに、大量のネジや特殊なビス、塗料や金物の数量などもエクセルで管理し発注を行なった。

ディテール

カウンター:天板は2mmのアルミアルマイト板。一段下がったバック置きカウンターは列柱を貫通しながら部分的に固定している。列柱同士は裏側で曲げプレートにて接続されている(約5本毎に上下天板・底板とも固定)。

ベンチ:CNCルーターで加工できるラジアータパイン集成材30mmを2枚重ねることで、撓みを抑える梁のような役割の部材を省略している。脚との接合は接着とドーナツ型が中心となったオリジナル手曲げL金物による。

ハンガーフック:φ45mmが雪だるまのように2枚連なったアルミアルマイト板をレーザーカットにより製作し、くびれの部分を軸に手で折り曲げている。

鏡:上記フックが通る孔を鏡に設けて、2点で吊るす構造。

カット台カウンター:アルミと集成材を重ねて木杭に通しオリジナルL金物で固定している。アルミと集成材は同型のCADデータであるため、ピタリと納まる。

蝶番:収納家具において、端部の木杭が支柱となることで、支柱より一回り大きいアルミパイプと扉となるアルミ板を超低頭ビスで固定し支柱に通すことで扉全体が蝶番のように動く仕組みとしている。

アルミアルマイト板連結棚板:杭とアルミ板の固定は杭を通す孔の部分の板を折り曲げて留める金物レスな納まりとしている。また棚板は似た形が多いため、ドットを用いたナンバリングを行った。

板取り・木取り:アルミアルマイト板は1mx2mのメーター板、ラジアータパン集成材は910mmx1820mmの3x6板が板の規格サイズであり、その中で効率よく板取り・木取りが行えるようにそれぞれの大きさや形状、配置において検討を重ねた。

木杭(クウキベイ):約1/3を白く、残りをクリアで塗装し、乾く前に拭き取ることで境界を曖昧にしている。ランドスケープやインテリアにおいては、空や明るい天井にその存在が湯煙のように消えていく印象を杭の高低差と共につくりだしている。

アンカー: 木杭による間仕切りは将来の可動と既存建物の床仕上げを考慮し、重さのあるコンクリートアンカーによる固定とした。方向性のある涙型の平面形をしており、さらに水玉の凹凸のある材を型枠材とすることで、表面は水玉模様となっている。